『ローマの休日』は若く美しいアン王女と、おじさん新聞記者ジョー・ブラッドレーの悲恋の物語。
以前見たときは全く気づかなかったんですが、最近見直してみて、出会いから別れまでの間に二人の仲が一線を越えたのでは……?と思うようになりました。
ローマの休日にベッドシーンはあるのか?王女はおじさんとキスしたあと一線を越えたのか?考察します。
ローマの休日にベッドシーンはある?
ローマの休日に、男女が睦み合ういわゆる「ベッドシーン」はあるのでしょうか?
あからさまなベッドシーンはないがベッドは重要な小道具
結論から言うと、『ローマの休日』に男女が裸で抱き合うようなベッドシーンはありません。しかし二人がそういう関係になった可能性は非常に高いです。
冒頭で王女が寝ているベッドは、ヘッドボードだけでなく天井にまで同じ模様の彫刻が施され非常に大きくて豪華。
ジョーの部屋で目覚めた王女は、天井の様子の違いを見て自分がいる場所がいつものベッドの上でないことに気づきましたw
二人の関係が一線を越えたと私は思っていますが、それについては記事後半で詳しく説明します。
ローマの休日にキスシーンは2回ある
『ローマの休日』にはキスシーンが2回あります。
1回目は船の上のパーティーから二人で逃げ出し、ずぶ濡れになって川岸に上がった直後のキス。
王女を追いかけるシークレットサービスと大立ち回りをやらかしたあと、川に飛び込んだ二人。
追手を振り切って川岸に登り、ひとしきり笑った後にふと交わしたキスです。
ジョーは自分がキスしてしまったことに驚いているように見えましたし、アン王女の顔には戸惑いの表情がありました。
「ここを離れよう」とジョーは王女の手を引いて立ち上がり、二人はジョーのアパートに向かいます。
2回目は二人が別れる直前の、車の中でのキスです。
もう二度と会うことはないと知りながら二人が交わす最後のキスは、情熱的でありながらも非常に悲しいキス。
I have to leave you now. I’m going to that corner there and turn. You must stay in the car and drive away. Promise not to watch me go beyond the corner. Just drive away and leave me as I leave you.
王女はこの言葉を残し、キスのあと車から降りて大使館の方へ走っていき姿を消しました。
”自分から車を降りた”ことが、彼女はジョーと同じ乗り物(ベスパ、パーティー会場の船、車や馬車)すなわち人生から降りる、ということを象徴的に表していますよね。
スペイン階段でジェラートを食べたあと、王女はずっとジョーに手を引かれながら一緒に行動していました。いわば、この1日だけは人生の舵取りをジョーに委ねた状態でした。
しかし2回めのキスの後、彼女はジョーの手を離して自らの意志で走り出します。それは、彼女が自らの人生を選び、本当の意味で大人になったということ。
車中から彼女の後ろ姿を見守るジョーの寂しげな表情が印象的でした。
王女は一線を越えた!隠されたベッドシーン考察
『ローマの休日』のおじさん新聞記者ジョーとアン王女はキスのあと一線を越えたのでしょうか?
王女はキスのあと一線を越えた!ベッドシーンが隠されている証拠とは
私は、最初のキスのあと二人は一線を越えたと思っています。
いくつか、私が「これは…そうでしょ?」と思うことを挙げてみます。
時計塔とジョーのアパートが映って鐘の音が聞こえる
ずぶ濡れの二人がキスをしたあと、時計塔とジョーのアパートの画像が映り、鐘の音が聞こえます。
二人が目覚めたのは昼の12時を告げる鐘でしたから、この鐘は夜中の12時の鐘なのでしょう。
At midnight, I’ll turn into a pumpkin and drive away in my glass slipper.
夜9時に始まったダンスパーティーから数十分で逃げ出したので、ジョーの家に戻ったのは遅くても10時半ごろ。
洋服が全部だめになったか?と尋ねられて王女は「もうじき乾くわ」と答えていますから、少なくとも2-3時間は時間が経っているはずです。
その間に何かあったと考えてもおかしくないでしょう。
アン王女がパジャマでなくガウンを着ている
アン王女がパジャマでなくシルクのような生地のガウンを着ているのも注目です。
これはジョーのガウンですが、前日にパジャマを借りたとき、パジャマの上から毛布を手繰り寄せ、下着を確かめたり、毛布をあてがったままジョーに背中を向けずにお風呂に入った王女とは別人のよう。
襟元はきゅっと閉じていますが、体の線があらわになる薄い服のままの王女は、ジョーに抱きよせられ、頬や顔にキスされるままになっています。
もしたった一度のキスで困惑したままの関係なら、薄いガウン一枚で抱き寄せられて愛撫されるような、恋人同士の雰囲気にはならないと思うんですよね。
それに抱き寄せられる前の会話も意味深です。
Everything ruined?
いいえ、もうすぐ乾くわ
No, they’ll be dry in a minute.
Suits you. You should always wear my clothes.
そうね。
Seems I do.
二人はワインを飲む
男性と女性がワインを飲む情景は、たとえばオランダ絵画では男性が女性を誘惑するシーンとして描かれます(フェルメールの「紳士とワインを飲む女」など)。
ジョーがアン王女を誘惑したことは明らかで、服装などから二人は”事を終えたあと”である可能性が高いと思います。
ジョーの部屋に初めてアン王女が来た夜、ワインを飲みたいという王女にジョーは「ダメだ」と言い、彼女の目につかない場所にワインを隠します。
ジョーはこのとき王女を子どもとして扱っていて、一緒にお酒を飲む対象だとは思っていません。
しかし1回目のキスのあとに続くシーンでは、ジョーは自ら「ワインを少し飲むといい」と言ってアン王女にワインをすすめ、自分も飲みます。
ジョーの王女に対する考え方が変わり、彼女を対等な大人として誘った結果と考えていいのではないでしょうか。
『ローマの休日』2回めのキスシーンはベッドシーンの代わりでは
昔のアメリカ映画では、セクシュアルな描写の自主規制が非常に厳しく、キスシーンで表現するのが限界だったようです。
その意味では、キスシーンの限界に挑戦したのかもと思うような激しいキスが、二人の2回めのキスでした。
ネット上では、ベッドシーンの代わりといえるかもという意見も見かけましたが、私もまさにそんな感じだなと思いながら見ました。
王女は一輪の花:摘んだのは新聞記者ジョー・ブラッドレー
この映画では一輪の花が王女の”処女性”の象徴として効果的に使われていると思います。
”花を摘む”という表現は絵画や文学でもしばしば”処女性の喪失”のモチーフとして用いられます。
大使館のベッドの上でミルクとクラッカーを渡されるとき、トレイの上には一輪の淡い色のバラがあり、アン王女はバラの刺繍の入ったネグリジェを着ています。
ネグリジェも白か白に近い色で、これは彼女がまだ”摘まれる前の花(処女)”であることの象徴でしょう。
ジョーの家で眠る前も「ピンクのバラのつぼみのネグリジェをお願い」と言っていますし、ジェラートを食べながら立ち止まった花屋のおじさんからは花を1本もらっていますね。
自分でも自分のことを少女だと思っているし、周囲の大人からもそう見える。
それがジョーと一線を越える前のアン王女の姿で、その象徴が1輪の花ということですね。
ジョーと一夜を共にしたあと自分の部屋に戻った王女は、大使や伯爵夫人に対して別人のように大人びた振る舞いを見せました。
そしてミルクとクラッカーはいらない、と伯爵夫人に伝えます。
この時もトレイの上に一輪の花が飾られているのですが、王女はその花ごと拒絶するのです。
このとき王女が身に着けているのは、濃い色で花の刺繍などは施されていないガウン。バラの刺繍がある白いネグリジェではありません。
彼女の花はすでに摘まれたのだと私は考えています。
ローマの休日にベッドシーンはある?王女は一線を越えたかまとめ
『ローマの休日』の脚本は本当によくできていて、文学作品のように練り上げられていると感じます。
2回あるキスシーンも対照的で、そのギャップが見る人の想像力を掻き立て、アン王女の成長ぶりを印象付けると同時に悲劇的な結末を想像させます。
当時のアメリカ映画の性的な描写は自主規制が厳しく、ベッドシーンは上映できなかったそうです。
その分、他のさまざまな小道具や会話で二人の関係を暗示し、見る人の知識によって深読みできる面白さがあるなあと、改めて作品を見て思いました。
何度見ても味わいのある、非常によく練られたストーリーだと思いますので、ぜひご覧ください!